「生成AIって仕事で使っていいんですか?」に文化庁、総務省、経済産業省の資料を読み込んで答える
「生成AIの出力物って仕事に使ってもいいんですか?」
セミナーや勉強会で、生成AIにお話しすると、必ず聞かれる質問です。初めてAIを触る方、一度試してみたものの挫折してしまった、様々なパターンの方がいますが、皆さま同じように「使用していいものか」と悩まれています。
これらの質問に対して、一言で答えると「使って良い」です。これは私が総務省や経済産業省、文化庁の資料を読み込み、それらに基づいてまとめた結論です。
無法地帯というわけではないので、配慮すべき点もいくつかあります。ただしそれも、AIだから特別に配慮しなければならないルールではなく、これまで様々なサービスやツールを使って制作物を作ってきたのと同じように、生成AIも一つのツールとして配慮すべきという話でしかありません。つまり、生成AIは新たな道具として捉えれば良いというのが今回の結論です。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/ai_guidebook_set.pdf
セミナーなど限られた時間ではこの程度で話を終わらせているのですが、せっかくニュースレターという形式なので、この件についてもう少し詳しく説明していきたいと思います。
もくじ
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法律や規約などルール上の問題
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1. 法的な制約
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2. AIツールの利用規約
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3. 掲載先の規約
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4. 取引先との契約
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AI生成物と知った関係者の反応
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1. お客さんはガッカリしないか
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2. クライアントの合格ラインは出せているか
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生成物の権利はだれのもの?
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法整備が禁止の方向で進む可能性は?
法律や規約などルール上の問題
まずは、法律や規約などルール上の問題でAIがどのように扱われているか細かくチェックしていきましょう。
1. 法的な制約
法律の問題は最初に皆さんが気にするものではないでしょうか。AIが作ったものが著作権に抵触しないかどうかという点は、私も最初は強く気にしていました。結論から言うと、AIの利用を禁止するよう法律はなく、現在AIと著作権の関係については文化庁から「考え方」という資料が出されているのみです。つまり、現時点では法的拘束力を持つようなルールは存在しません。
令和6年年7月現在におけるAIと著作権に関する考え方は、AIを作る段階と使う段階の大きく2つに分けられます。まずAIを作る段階では、ネットを中心とした多くのデータを使って学習しており、その中には企業や個人の著作物が含まれています。これはテキストを中心としたChatGPTやClaudeのようなLLMに限った話ではなく、Stable DiffusionやMidjourneyなどの画像生成AIや、音楽や動画生成AIにも同様に当てはまります。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf
これらのAIを作る段階で、多くの著作物が大量に読み込まれているわけですが、その目的が著作物を意図的に生成するためでなければ、特に問題になりません。著作権を侵害すると特定の著作物を出力するために特化したAIを開発することは禁止される方向で動いていますし、それら海賊版ともいえるAIを海賊版と知りながら使うことは許されません。そういう特殊なケースを除けば、著作物を大量に学習したAIは開発してもOK、利用してもOKというのが日本の考え方です。
次に、生成AIが出力したものを使う段階、つまり私たちがAIサービスを利用してそこから出てきた生成物を使う際に著作権の問題をどうするかという点です。これについては、出力物が著作権を侵害していると知りながらそれを商用利用することは許されていません。既存のキャラクターのイラストや、有名人に似せた写真をそれと知って使用することは避けてください。
2. AIツールの利用規約
次に問題となるのは、AI自体の利用規約です。テキストや画像を生成するChatGPTについては、利用規約で法的に認められる範囲ですべての利用が可能と明記されています。
Our use of content. We may use Content to provide, maintain, develop, and improve our Services, comply with applicable law, enforce our terms and policies, and keep our Services safe.
画像生成AIのMidjourneyも同様に、著作権はユーザに帰属し、商用利用ができることが明記されています。このように、AIツール自体が商用利用を許可しているかどうかが次の問題となります。
一方で、Microsoftが提供するCopilotの無料版については、利用規約を入念に読み込んでも商用利用が可能かどうかが明確に記載されていませんでした。これは、Copilotの権利についての記述がMicrosoftのその他の製品の基本ガイダンスに準ずるなど、外部の規約と行き来しているため、どのガイダンスに基づいているのかが分かりにくいからです。このように、商用利用が明確でないツールや、商用利用が不可と明示されているツールは当然使用すべきではありません。
ただし、これもAI特有の問題ではありません。これまでのツールでも、商用利用に適したものや、商用利用には使えないものが存在しました。AIも結局はこれまでのツールと同じです。利用規約に則って使用していきましょう。
3. 掲載先の規約
続いて掲載先の規約について説明します。これは、AIで生成した文章や画像、動画などのコンテンツを投稿する際の、その投稿先の規約に関するものです。YouTubeの利用規約には、AIが生成したコンテンツの場合、チェックを入れる項目が増えるなどの制約が今後設けられるようです。このように、AI関連に適応した制度については従っていきましょう。
特に禁止されていない場合は、AIで生成したコンテンツを使用しても良いと考えて良いでしょう。法律で特に禁止されてるわけでもなく、規約でも禁止されていないのなら、わざわざ避ける理由がないからです。
一方で、判断が難しい規約も存在します。例えば、LINEの規約には「権利の所在が明確でない作品」をLINEスタンプとして販売することは禁止されています。
https://creator.line.me/ja/review_guideline/
この点に関しては、AIが生成した画像に著作権が発生するかどうかが明確ではないため、AI生成物はグレーゾーンとなります。AIが生成したそのものには著作権が発生しないものの、それを人間の手で編集したり、「お疲れ様」「おはよう」などの文字を載せると、その文字部分には人間の工夫として著作権が発生する可能性があります。このような権利関係はまだ明確に定まっていないため、利用規約を確認しながら判断する必要があります。
結論として、掲載先の利用規約は守る!そしてそれはAIに限ったことではなく、これまでと同様の考え方になります。
4. 取引先との契約
業務委託などで制作物を承る際には、そのクライアントとの契約が生成AIの出力物を使用していいかどうかに関わります。もしクライアントとの契約に「AIを使ってはいけない」という文言が明記されている場合は、当然ながらAIを使用することはできません。AI導入以前から取引がある企業についても、不安や誤解が多いことがあります。世の中にはまだ多くの不安や誤解が存在するため、著作権や利用規約をしっかりと確認し、生成AIを使って楽をするのではなく、さらにクオリティーをアップさせようとしていることをクライアントにしっかりと伝えることが大切です。
また、生成AIの出力物だけでなく、生成AIに入力する情報についてもクライアントとの取引に関わることがあります。基本的に業務委託と同時に守秘義務契約を結ぶことになりますが、こうした契約には機密情報を第三者に漏らしてはいけないという内容が含まれているはずです。ここで問題になるのは、AIは基本的に学習のためにデータが必要であり、ユーザが入力したデータも貴重なAIの学習資源となるため、機密情報を入力するとそれがAIに学習されるのではないかという心配が発生することです。
この点については、AIの学習に自分の入力データを使わせないオプトアウト設定を設けているツールも多いため、オプトアウトの設定をするとよいでしょう。もしくは、そもそもユーザーの入力を学習には使わないツールもあります。こうしたデータの扱いの厳しさでツールを選ぶことも一つの考え方です。繰り返しになりますが、セキュリティの良いツールを選ぶことはもちろん大切ですが、ある程度リスクとリターンのバランスを取ることも重要となります。
AI生成物と知った関係者の反応
ここまでで、AIは著作権の面でも、ツールの利用規約の面でも、掲載先の規約からも、使用して問題ないと説明してきました。しかし法律やルールでOKだからといって、全ての人がAIを喜んで受け入れてくれるわけではありません。最終的にコンテンツを楽しむお客さんや、依頼したクライアントへの配慮はまだまだ必要でしょう。
1. お客さんはガッカリしないか
最終的にコンテンツを楽しむお客様が、AIの成果物を許容しないケースがあります。特に最近では、イラスト界隈で「これはAIが作ったのか?」とチェックする動きがSNS上でよく見られます。企業がキャラクターグッズ制作にAIを使用したのではないかという疑惑が広まり、多くのユーザーがショックを受けた例もありました。実際にはその企業はAIを使用しておらず、人間のイラストレーターが描いたと声明を発表しましたが、それまでの間、多くのユーザーが不信感を持ってしまったのです。
今後ともプリキュアシリーズへの応援を何卒よろしくお願い申し上げます。
人間のクリエイターが作ったものが「疑わしい」というだけで話題になるのですから、生成AIで出力したものがお客様に与える心理的影響は無視できません。私自身も、AIが書いた文章を見てショックを受ける経験をここ1年で何度もしました。ただし、これもAIに限った話ではないと思っています。AI登場以前から、ゴーストライターの存在がありました。インフルエンサーが自分のブログに載せている文章を、実は外部のライターが書いていたという事例も多くあります。私もライターとしてそのような仕事をしたことがありますし、納得しているつもりでした。
しかし、実際に尊敬しているインフルエンサーのブログを見に行って、明らかに本人の口調ではなく、検索上位にあることをつらつらと書いている文章を見てしまい、「これは外部のライターが書いたんだ」とショックを受けた記憶があります。結局のところ、AIかどうかというよりも、本人かどうか、つまりそのブランドが発信する一定の基準や価値観に当てはまっているかどうかが、お客様にとっては重要なのではないかと思います。
AIが与える影響についても考えるべきですが、最終的には、自分たちの成果物として発信する内容が、ブランドの基準や価値観にしっかりと合致しているかが重要です。これは今後ますます重要になっていくのではないかと考えています。
2. クライアントの合格ラインは出せているか
受託で業務委託を受け、生成AIを使って制作し納品する際には、クライアントの期待に応えているかどうかを確認することが重要です。発注者と話をすると、生成AIを使用しているかどうかが問題なのではなく、発注した当時に期待しているレベルを納品しているかどうかが問題であると言われます。クオリティーが担保されている限り、AIを使うことに問題はないと考えるクライアントがほとんどなのです。
一方で、AIを特に禁止も推奨もしていないクライアントから、「提出された成果物がAIの出力そのものでがっかりした」という声も耳にします。長年一緒にやってきたクリエイターが急にAIの出力物を出してきた場合、特にショックを受けることもあるそうです。
私自身、生成AIが話題になった2023年の4月頃、AIを活用するライターチームを作ろうと思い、AI利用を前提としてライターを募集したことがあります。しかし、チームでAIを活用するのは非常に難しいものでした。個人のAIの使い方や成果物のクオリティーに対する向き合い方は共有が難しいためです。
そのため、制作する人それぞれが自分の成果物がクライアントの求めるクオリティーに達しているかを気にする必要があります。クライアントの期待に応えることが最も重要であり、そのためにはAIを適切に活用しつつ、納品物のクオリティーをしっかりと保つことが求められます。
生成物の権利はだれのもの?
これまでは生成AIが出力したものを使ってよいかどうかに焦点を当てて紹介しましたが、次はその利用について権利が発生するかどうかを確認しましょう。結論から言うと、AIが出力したものに対して著作権が発生するかどうかは、現在世界中で議論されている問題です。
具体例として「夜明けのザーリャ」というAI漫画の有名な裁判があります。このケースでは、AIに漫画の絵を出力させ、それに人間がコマ割りをし、セリフをつけ、ストーリーを作成して1冊の漫画に仕上げました。この作品がアメリカで一度著作権を認められたことで話題になったのです。AIが出力した絵に著作権が発生することが認められた瞬間だと思われましたが、直後に当局はその結論を撤回しました。
撤回の理由としては、「夜明けのザーリャ」の絵は1コマを生成するために何百回も生成回数が重ねられており、これは偶然の産物に過ぎないという考え方です。偶然によるものであるため、製作者の意図が反映された著作物とは認められないとされました。例えばチンパンジーにカメラを持たせて撮った写真に著作権が認められないのと同じ考え方です。このように、生成AIが出力したそのものに対する権利が認められるかどうかは、まだ議論の余地があります。
私の使用しているアイコンも、Midjourneyで生成した世界に一つしかない絵ですが、これを私のものとして主張できるかどうかは不明確です。
生成AIが出力したそのものに著作権が発生するかどうかは今後の課題となるでしょう。ただし、特に気にしすぎる必要はないのではないかとも思います。既に我々は無料の素材サイトから素材を引っ張ってきて、それを制作物に組み込んで何かを作ってきました。そしてこれまでも、そうしたダウンロードした素材それぞれには何も権利を主張できませんでした。素材を組み合わせて一つの文章や一つの画像を作成することで、我々の著作物となってきました。同じように生成AIも考えて使っていて問題ないのではないでしょうか。
法整備が禁止の方向で進む可能性は?
ここまで述べてきた通り、AIの利用に関して明確に禁止されるルールは特にありません。著作権や著作物に敬意を払い、ツールやプラットフォームの利用規約を守ることが重要です。これまでと同じように運用することで問題ないという結論に達しました。ただし、いくつかの問題があり、今後調整が必要なポイントも確かに存在します。
次に気になるのは、今後法整備が禁止の方向に進む可能性があるかどうかという点です。これについても、AIを禁止する方向にはあまり動きにくいと考えられます。総務省が7月5日に発表した情報通信白書から、日本が今後AIにどのように取り組むのかを総合的に判断すると、その方向性が見えてきます。
情報通信白書には40,000文字以上のAIに関する情報が含まれていますが、結論として述べられているのは、AIには一定のリスクがあることを理解しつつ、禁止することで国際的な競争力を失う可能性があるため、リスクに配慮しながらAIを社会に浸透させていくという方針です。基本的に日本はAIを推進していく考え方を持っています。この点を知っていると安心できるかと思います。
ただし、ニュースを見ていると、EUではプライバシー問題でAIが規制されるといったニュースも頻繁に目にします。各国のAIに対する姿勢の違いについても情報通信白書には興味深い情報が載っていました。以下に一部引用しながら説明します。
欧州連合(EU)域内発のビッグテック企業が無い欧州は、他の地域に先駆けて最も厳しい規制を志向し、2020年からAIの規制に関する議論を続けてきた。
英国現スナク政権は、法的拘束力のあるAI規制には消極的で、安全に配慮しながらAIシステムの開発を促し、経済成長に繋げたいとする考えから、当面はEUのAI法のような厳格な規制を新たに整備せず、既存の枠組みで柔軟に対処する方針を表明してきた。
米国ビッグテック企業を多く保有する米国は、自国の企業保護に力を入れ、政府による規制よりも民間での自主的な対応を優先し、企業の取組に任せつつ必要の場合に政府が規制をかけるという立場をとってきた。
日本AIガバナンスの方向性として、欧州が法的拘束力の強いハードローを志向しているのに対し、日本は現時点では、AIガバナンスに関する横断的な法規制によるアプローチではなく、民間事業者の自主的な取組を重んじるソフトローアプローチを志向しており、総務省と経済産業省を中心に取組が行われてきたところである。
第2 節 AIに関する各国の対応まとめると、EU地域はAI技術を牽引するようなスター企業がまだないため、他国のAIが強くなるのを抑えたいという意識が強いようです。そのため、地域的にはAIを規制する方向に進んでいます。逆に、世界トップの企業をいくつも抱えるアメリカは、企業を守る動きを進めています。トップとして他国と差をつけたいという意図があるのでしょう。世界で3位のAI大国である英国は、バランスを取る政策を進めています。AIに関する法律を世界で先駆けて作るなど、早期から取り組んでいますが、禁止する方向ではなく、既存の著作権などをAIに適用する運用を考えています。
日本では、法整備よりも民間の使い方に委ねたいという内容が情報通信白書に記載されています。これは、政府が全てを指示するのではなく、国民一人ひとりが判断することが重要であるという姿勢を示しています。わたしたち国民は積極的に「ここはAIを使った方が良い」「ここは使わない方が良い」と判断することが求められるでしょう。最後に余談ですが、総務省の資料に中国の反応がなかったのが気になります。中国は世界で第2位のAI大国であり、重要なポイントが多いはずです。なぜ資料になかったのか、今後調査を進めていきたいと思っています。
まとめ
今回のレターの内容は以上です。最初に申し上げた通り、AIは業務に使って問題ありません。AIだから特別に気にしなければならない、縛られているルールはないということです。これまでの政策と同様に、各方面に配慮しながら進めていくことが良いという結論です。
配慮しなければならないのは、ルールの面ではなく、その制作物を見るお客様やクライアントの目の方です。AI自体は非常に注目度の高い技術ですが、すべての人が歓迎しているわけではありません。そのため、ここでAIを使うことが適しているかどうかを常に判断する必要があります。
今後のAIの規制についても、日本では規制が強まる方向には進まないでしょう。AIを悪用する人が増えてきた場合、その悪用する使い方に限って制約が設けられることは考えられますが、そういった悪用を目的としているわけではないため、特に気にする必要はないと思います。以上のように、AIはほとんど問題なく使用できる状況ですので、安心して活用していただきたいと思います。
参考資料
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今すぐ使えるけれど3ヶ月後には古い情報になっちゃうようなAIツールの情報ではなく、1年後から3年後にじわじわ実感しそうなニュースを取り上げてみました。今回のトピックはいかがでしたでしょうか?
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チキン@ライターにマシュマロを投げる | マシュマロ匿名のメッセージを受け付けています。marshmallow-qa.com
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